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東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)34号 判決 1971年4月15日

原告(各事件共通)

松下電器産業株式会社

代理人弁理士

芝崎政信

被告(第三三号事件)

三菱電機株式会社

代理人弁護士

田倉整

弁理士

鈴木正満

葛野信一

被告(第三四号事件)

新日本電気株式会社

代理人弁護士

田倉整

弁理士

栗田春雄

被告(第三五号事件)

東京芝浦電気株式会社

代理人弁護士

田倉整

弁理士

鈴江武彦

小宮幸一

河井将次

被告(第三六号事件)

シャープ株式会社

代理人弁護士

田倉整

弁理士

福士愛彦

杉山毅至

被告(第三七号事件)

株式会社ゼネラル

代理人弁護士

田倉整

主文

原告の請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は、全部、原告の負担とする。

事実《省略》

理由

(争いのない前提事実)《略》

(本件各審決を取り消すべき事由の有無について)

二原告は、本件各審決が、引例AまたはEまたはFと引例B(以上の引例が、いずれも本件考案の登録出願前国内に領布された刊行物であることは、原告の認めるところである。)および審決認定の各周知事実を総合して、本件考案を容易に推考しうるとしたことは、判断を誤つたもので違法である旨主張するが、原告の右主張は理由でない。

すなわち、引例A、EおよびにFは、いずれも、脚を有する枠台の下面に反射板を設け、反射板の下方に電気発熱体を装着し、その電気発熱体を覆う保護網を設けた電気こたつが記載されていることは、当事者間に争いがなく、これらのものと本件考案とを比較すると、脚を有する枠台の下面に反射板を設け、反射板の下方に熱源を装着し、熱源を覆う保護網を設けた点で一致し、単に熱源の点で、引例A、EおよびF記載のものは電気発熱体を用いているのに対し、本件考案が主として1.1〜1.3ミクロンの輻射線を発する医療用の赤外線電球を用いていることにおいて、相違していることが明らかである。しかし、他方において、引例Bには、枠台の内部に熱源として赤外線電球を挿入した電気こたつが記載されていることも、当事者間に争いのないところであるから、引例A、Eおよびと引例とを総合して考えると、単に熱源の点において本件考案と相違する引例A、およびE記載の電気こたつにおいて、熱源の電気発熱体に代えて、引例Bの電気こたつにおける加熱用赤外線電球を用いることは、これを装着するについて解決すべき特段の技術的障害事由が存しないかぎり、容易になしうることと認めるのが、経験則上相当であり、右特段の技術的障害事由の存在することは、本件に現れた全資料を通じて、これを見出すことができない。

ところで、加熱用赤外線電球が医療効果をも有することが周知の事実であることは、当事者間に争いのないところであるから、右のように、引例A、EおよびFの電気こたつの熱源に加熱用赤外線電球を用いた場合には、天板に設けられた反射板の下面に赤外線電球が取り付けられるという構成上、輻射線が直接下方に放射されるようになるため、暖房効果とともに医療効果をも併有するものとなることが明らかである。このように、電気こたつの熱源として、加熱用赤外線電球を用いた場合、暖房効果とともに医療効果が併せ奏せられるものである以上、当業者がこの点に着眼して、さらに医療効果を高めるべく、加熱用赤外線電球に代えて医療用赤外線電球を使用することを着想するにいたることは、経験則に照らし、きわめて自然のことであるといわなければならない。この点について、原告は、引用例記載のものは、いずれも、単に暖房のみを目的とし、医療の意図を有せず、構成上も医療効果を奏すべきものでもないのであるから、暖房と同時に医療をもあわせて目的とする本件考案のようなものを推考すべき根拠とはなしえない旨主張するが、引例A、EおよびFのような電気こたつにおいて、加熱用赤外線電球を用いた場合、暖房兼医療効果を奏すべきことを直接意図するところがなかつたにせよ、前記のように、赤外線電球の輻射線が直接下方に照射されるようになるという構成自体により暖房効果とともに医療効果をも奏するものであることが客観的事実として認識されるべきものである以上、原告の右主張は理由のないことが明らかであり、また、加熱用赤外線電球に代えて医療用赤外線電球を使用する着想妨げとなるべき技術発障害事由が存在することは、本件の全証拠をもつてしても、これを認めるに足りない。

そして、原告は、本件考案の電気こたつは、医療用赤外線電球を用いたことにより、医療兼暖房用器具として特段にすぐれた作用効果を奏するものである旨主張するが、原告主張の医療上及び暖房上の効果は、加熱用赤外線電球も医療効果を有する以上、これを電気こたつの天板に下方に向けて照射するように装着したことによる当然の効果以上に出るものはなく、また、発熱による安全性の点についても、電気こたつにおいては、熱源の発する熱量はすべてふとんの内部にこもることになるのであるから、加熱用赤外線電球と医療用赤外線電球との放射効率に相違があるにしても、安全性において格段の相違があるものとみるべき根拠は乏しいものといわざるをえない。したがつて、本件考案において、電気こたつの熱源として医療用赤外線電球を用いたことにより、加熱用赤外線電球を用いた場合に比し、特段にすぐれた作用効果を奏すべきものと認めるに十分なものはなく、また、医療用赤外線電球の輻射する赤外射は、波長1.1〜1.2ミクロンの附近で最も医療効果の高いことが周知の事実であることは、当事者間に争いがなく、本件考案の医療用赤外線電球の輻射線の波長を主として1.1〜1.3ミクロンとした点に作用効果のみるべきものがあることは、本訴において、原告の主張しないところである。

以上の説示によれば、本件考案は、引例AまたはEまたはFと引例Bおよび「加熱用赤外線電球も医療効果を有し」「医療用赤外線電球の輻射する赤外線は波長1.1〜1.2ミクロン附近で最も医療効果が高い」という各周知事実を総合すれば、容易に推考しうべきものと認めるのを相当とすべく、他にこの認定を左右すべき証拠はない。したがつて、本件各審決の認定判断は正当であり、原告の主張は理由がないといわざるをえない。

(むすび)

三よつて、その主張の点に違法のあることを理由に本件各審決の取消を求める原告の本訴各請求は、いずれも理由なしとして棄却すべきものと認め、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(服部高顕 石沢健 奈良次郎)

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